進歩性に悩める弁理士のブログ

主に自己の業務の備忘録として思うまま書いていきます ※業務以外の雑談も

設計事項かどうか

先日、特定の審査官から設計事項を連発されていることをぼやく記事を投稿しました。そして一度「設計事項」をおさらいしておかなければと思い立ち、簡単ですがおさらいしてみました。
先ず、最も基本となるのが審査基準の以下の記載です。これらは設計事項に該当するとされています。
「一定の課題を解決するための・・・
 (i)公知材料の中からの最適材料の選択
 (ii)数値範囲の最適化又は好適化
 (iii)均等物による置換
 (iv)技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用」
審査基準では上記の各ケースについて最低1つの事例が記載されていますが、簡単な記載の限りで、それを読んだだけでは「まぁ確かにそうだよね」という内容であまり参考になりません。
次に審査基準に関連して「進歩性の審査の進め方の要点と参考事例」というものがあります(こちら特許庁HPに飛びます))。
その中で「8.1.2(1)設計変更等」という項目があり、例が2つ掲載されていますが、こちらも「まぁ確かにそうだよね」という内容です。尚、2つとも「設計事項に該当する」例です。
次に審査ハンドブックです。附属書Dの「3.新規性・進歩性」に、「本願発明と主引用発明との間の相違点について、設計変更等といえるか否かについて」という項目で13の知財高裁裁判例が掲載されています。(こちら特許庁HPに飛びます))。
こちらは、上記の審査基準や参考事例よりもだいぶ詳しい内容で或る程度参考になります。
ただ、詳しいことは詳しいですが、13の事例のうちなんと12が「設計事項に該当する」で、「設計事項に該当しない」はたった1つのみです。
個人的に思うのですが、審査基準も審査ハンドブックも審査官向けの資料ですが内容があまりに発明を拒絶する方向に偏っている気がします。その様な内容をもとに日々審査していれば、拒絶ありきの方向に強く作用してしまうのではないでしょうか。事例を多数掲載するのなら、進歩性なし・あり半々にしてほしいものです。もっと言えば、進歩性ありの事例に力を入れて頂きたいものです。なぜなら、発明を拒絶するのは許可するよりも心理的に容易と思われるからです。

話が反れましたが、審査ハンドブックの附属書Dの上記13事例のうち材料・化学分野を除いて一読してみましたが、結局「設計事項」を考える際も、主引例に副引例を適用する際に考慮する課題の共通性や阻害要因等が、設計事項かどうかを分ける要素となるようです。
弁理士会のパテント誌にちょうどこれに関する記事がありました。*1
例えば、引用発明からみて想定の範囲を超えた想定外の構成は適宜なし得る範囲とはいえない、とか、課題・作用効果・機能が異なるとか、発明思想が異なるなどの事情があり、それにより相違点に係る構成に格別の技術的意義があるといえる場合や、引用発明の技術的意義が変動して引用発明に負の結果をもたらすような事項が、設計事項でない、ということの様です。
何となく判ったような判らないような状態ではありますが、引例の内容に基づけばその技術の適用が負の結果をもたらすとか、本願の技術思想が引用発明からして飛躍しているなどは、直近に扱った数件の事例では該当しそうな感じであり、今後意見書での反論の際に積極的に考慮して行こうかと思います。

 

*1:細田芳徳「進歩性判断における設計事項について-設計事項と非設計事項の境界-」 日本弁理士会パテント2019年05月号 P26-34