進歩性に悩める弁理士のブログ

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【裁判例】令和3(行ケ)10080 引用発明の認定誤り

今回は「令和3(行ケ)10080」について検討します。判決言渡日は2022/05/11です。無効審判での特許維持審決に対しての取消請求事件であり、審決が取り消され、結果的に特許が無効になったものです。

【本件発明(特許6440319)の概要】
印刷物に関するものであり、普段は見えないけれど、強い光を当てると図柄が浮かび上がって見えるものです。


20が「再帰反射シート」であり、黒色であって普通の光は吸収するけれど強い光は反射するものです。その再帰反射シートの上に印刷層12があり、その上に減光シート11が設けられています。
印刷層12は、その名の通り印刷されて成る層ですが、この印刷層12が請求項では「透光性の印刷層」と記載されており、この「透光性」を有する点が争点となります。

【引用例】
非特許文献でありネットでは得ることができませんでしたが、上記の印刷層12に関し「溶剤インクジェット印刷を施すことにより形成された印刷層」が「黒色の再帰反射フィルムに備える」ものが記載されている様です。尚、「透光性」を有することについての明示の記載はないようです。

【要点】
特許庁は、引例の印刷層が「透光性」を有する点に関し、引用例には記載も示唆もなく、本件特許は有効と判断しました。(阻害要因も主張していますがここでは省略します。)
これに対し原告は、一般的なインクジェット印刷を普通に施せば透光性を持つことになる、といった主張をしています。
引用例の「溶剤インクジェット印刷」というものが、本件発明とは異なり「非透光性」であることが明らかであれば、特許庁の主張が一理あるということになりますが、そうではありませんでした。
裁判所は、引用例には非透光性のインクを用いたものに限られるとの記載又は示唆がないこと、溶剤インクジェット印刷においては透光性を有するCMYのインクが広く用いられていたと認められること、等に基づき、引例の「溶剤インクジェット印刷」に関し当業者は透光性を有するものと容易に理解した、と判断し、特許庁の判断を誤りとしました。
一連の流れだけ見ると、普段中間実務を行っている私の立場からすると裁判所の判断のほうが審査官の判断に近い様に感じます。審判では権利者側に有利なように引用例を狭く判断してくれている為、権利化段階では逆にそういったアプローチにより、諦めないで拒絶理由に反論することも肝要である、と改めて感じるところです。

【詳細情報】
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※注)上記裁判例に関する本ブログの記載はあくまで個人的な見方となりますこと、ご了承ください。