あすみ総合特許事務所の鈴木です。2022年にこのブログを始めてから、特許・実用新案審査基準のそれ程大きな改訂はありませんでしたが、今回比較的大きな改訂が予定されています(こちら)。 幾つかの改訂が予定されていますが、最も大きいのは「除くクレーム」に対する引き締め(←個人的見解です)を目的とした改訂で、大まかには以下の2つです。(注:以下2つの表現も当方の個人的な見方です)
1.「除くクレーム」とする補正が、認められ難くなる。
2.「除くクレーム」+「阻害要因」の合わせ技が、認められ難くなる。
当方が個人的に懸念しているのは、2.についてそもそも今回の改訂の発端が「除くクレーム」なのに、「除くクレーム」とは関係なく「阻害要因」の考え方が改訂されるので、「除くクレーム」を用いていなくても「阻害要因」が認められ難くなるのではないか? という点です。
先ず、なぜ今回このような改訂の方向になったのかを簡単に記載しますと、特許制度小委員会審査基準専門委員会ワーキンググループ(以下「WG」)において、「除くクレーム」が「濫用されている」という意見が出ていました。WG議事録によれば、その様な「濫用」は専ら化学分野で見られていたようです。但し近年、機械・電気・情報等の分野でも「除くクレーム」が増えているという事実もあるようです。
化学系企業さんの話によると、「拒絶理由が出されるたびに「除くクレーム」補正がなされるので、なかなか事業判断ができず、「予見可能性」がなくて困っている」そうです。WG議事録を読む限り、これが一番大きな理由の様です。
ただ、「除くクレーム」の「濫用」に関しての客観的な証拠資料は見当たらず、また電気系企業さんの話では「除くクレーム」で困っているという意識は全くないとのことですから、本当に審査基準を改訂する必要があったのか、その点はWG議事録を読む限り疑問に感じるところはあります。ただこれは、自分がこれまで「除くクレーム」に係わることが殆どなかったということに起因するのかもしれませんが。
次に、1.に関しては今回のブログでは省略するとして、2.について記載します。主引例と副引例とがあって、例えば副引例に、主引例に適用することを阻害する記載があれば、動機付けを否定する要因として考慮されることとなります。そして「除くクレーム」に関しては、副引例で必須構成とされているものを除く様にすれば、本願発明に想到し得ないという阻害要因を主張できることとなります。このようなことが、近年多用されており、その結果本来進歩性のレベルの低いものまで特許されている、ということが問題にされているようです。
そのため、「阻害要因」があってもその程度には差があり、それも踏まえて評価することや、阻害要因が「引用発明の発明者」の視点に引きずられる傾向があるので、「引用発明の発明者」に囚われることなくその技術分野の当業者の視点で考える、ということが改訂内容となっています。
この点に関しても、「引用発明の発明者」ではなく広く当業者の視点で考えたら阻害要因があっても動機付けができる、という実際の具体例を見たことがないしWG資料では開示もされていないので、いまひとつピンときません。
ところで、弁理会の近年のパテント誌に、特許委員会の活動報告を紹介する記事として「除くクレームの有用性についての検討」というものがあり、「除くクレーム+阻害要因は有用ですよ」という紹介がされています。また弁理士会の某研修でも、「除くクレームが使えるようになると中間処理の引き出しが増えますよ」といった紹介がされており、とくにこれらはいずれも化学分野に限らず機械、電気等分野で使えますよ、とのことで紹介されています。こういった弁理士会・弁理士側の動きと、WGの動きとは相反するものであり、問題の本質がどこにあるのか、除くクレームに普段関わりがない自分には全くわからないです。
最後に、「自分は除くクレームに普段関わりがない」と書きましたが、直近で「除くクレーム」とする補正を行いました。そのことを少し紹介します。
当初、本願発明が引用発明と文言上「たまたま」重なっていたので、新規性&進歩性欠如の拒絶理由通知が出され、それに対して減縮補正をしました(「A+B」→「A+B+C」)。しかし審査官が独特な考え方をする方で、Cを加えてもなお同一発明である、とされてしまいました。ならばもう、「除くクレーム」として本願発明から引用発明を除いてしまうしかない、と考え、「除くクレーム」としました。ちなみに除いた構成は、引用発明に必須の構成です。
実はこの補正は、意見書と補正書を提出する前に、事前に審査官に電話面接を求め、OKの回答を得た上で提出したものでした。
ところがその提出後、3か月ほど経ってから突然その審査官から電話がかかってきて、「除く構成が明細書に記載されていないから新規事項追加である、との意見が内部から出てしまった」とのこと(苦笑)。 いや、なかなかレアな事例だと思います。
ソルダーレジスト大合議判決では、除くクレームの新規事項判断に関し、明細書又は図面に具体的に記載されていない事項であっても、新たな技術事項を導入しないものである場合には、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである、と判断されているんですけどね。今回のケースも、勿論新たな技術事項を導入するものでは全くないのですが、「図面が2次元の図面であって奥行き方向の構成がどうなっているかわからないから」とか、信じられない理由を言われました。
どうやら、いまWGで「除くクレーム」の引き締めの方向に向かっていることが、上記のようなことに繋がったようです。WG議事録でも、既に新規事項追加の判断が厳しくなっていると発言された弁理士もいるようです。
以上の通りですので、行き過ぎた引き締めに向かわないようにと強く願うばかりです。








