進歩性に悩める弁理士のブログ

主に自己の業務の備忘録として思うまま書いていきます ※業務以外の雑談も

ジャネの法則

 あすみ総合特許事務所の鈴木です。今年最後の一日、仕事の雑用をこなしつつ、家の雑用もこなしつつ、という感じで過ごしています。
 写真は、少し前ですが自宅近くのメタセコイア並木です。毎年見事な色づきを見せてくれます。

 本当にあっと言う間に一年が終わりました。
 最近、歳をとるに連れて時間の経つのが速く感じることにちゃんとした法則名があるということを知りました。「ジャネの法則」というもので、主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く評価されるという現象を心理学的に説明したものらしいです。例えば、60歳の人間にとって1年の長さは人生の60分の1であるが、6歳の人間にとっては6分の1であり、主観的に感じる年月の長さは歳をとるほど短くなり、時間が早く過ぎると感じる、と。 
 時間の過ぎるのが早く感じるだけで1年間で進歩したこと、達成したことが多数あり、振り返って満足できた、というのであれば良いですが、まぁそうはなりませんね(苦笑)。ただ、今年は業務において幾つかの進歩はありました。
 来年は一つでも今年以上の進歩が実感できるようにしたいと考えています。

 来年もどうぞ宜しくお願い致します。

【裁判例】 令和7(行ケ)10003 引用考案の認定の誤り

 久しぶりの裁判例の検討となります。(言い訳になりますが、特許・実用新案での審決取消請求事件の判決が6月頃から9月頃まで出ていませんでした。)
 
今回は「令和7(行ケ)10003」です。判決言渡日は2025/9/30。実用新案登録に対する無効審判の成立審決を取り消す請求に対し、理由があるとして審決が取り消されたものです。(特許庁は進歩性なしと判断、裁判所は進歩性ありと判断)

【本件考案の概要】
 ベッドに係わる考案で、比較的シンプルな内容です。従来のベッドは、ベッドフレームとマットレスとが別体であり、ベッドフレームが大きく、輸送が大変であったことが解決課題です。
 本件考案は、マットレス本体とマットレス本体に間隔を隔てて接続されている支持板(12)及びこれと着脱可能に接続されている支持脚(20)を備えており、このようなベッド構造は、支持脚(20)を外した状態でマットレスを支持板(12)の配列方向に沿ってリール状に巻き取ることができ、搬送時にマットレス全体の梱包体積を低減させ、さらに搬送を便利にする、というものです。
 (図中、朱色の支持板(12)は、当方が書き入れたものです)

 念のため、請求項1を以下に記載します。
【請求項1】
  マットレス本体及び前記マットレス本体に接続されている複数の支持板を有するマットレスと、
  前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚と、
  を備えるベッドであって、
  複数の前記支持板が、前記マットレスを前記支持板の配列方向に沿って巻き取ることができるように前記マットレス本体の一方の面に間隔を隔てて配列されていることを特徴とするベッド。

【引用考案(甲1考案)】

 引用考案である甲1考案は、本件考案が課題としているベッド構造そのものであるように見受けます。甲1考案は、ベッドフレーム8の長手方向の両端部に、高さが高い「ヘッドボード」と、高さが低い「フットボード」を備えています。ベッドフレーム8は、ベッドマットレス1を支持するリブ状のマットレス支持板が設けられた側板を備えています。要するにベッドマットレス1は、大きな枠状のベッドフレーム8に、上から落とし込む様にして設けられます。ベッドマットレス1は、ベッドフレーム8に、上から落とし込むだけであり、特段何らかの接続構造を備えるものではありません。
 ベッドマットレス1は、スラット3を有しています。(スラットと言うのは、マットレスの分野でマットレスを支える薄い板状の部材のようで、一般的には「すのこ」状に並べられた床板を指すようです。) スラット3は、ベッドマットレス1の側縁に沿って設けられたバンド5のポケット4に挿入されます。この様なベッドマットレス1は、それ自体はくるくると巻くことができ、輸送スペースを最小限に抑えることができる、と記載されています。
 大きな枠状のベッドフレーム8を必要とするのですから、本件考案の課題を解決できないことは一目瞭然です。



【審判での判断】
 審判では、甲1発明の「ヘッドボード」と「フットボード」(いずれも板状のもの)の下端部が、上図のように「支持脚」であると認定しました。
 また、甲1考案におけるベッドマットレス1は、スラット3(本件考案1における「支持板」に相当)、バンド5、マットレス支持板及び側板を介して、支持脚と間接的に接続されている、と認定しました。
 以上により
、本件考案1と甲1考案との間に相違点はない、と認定しました。


【裁判所の判断】

 裁判所は、以下の様に認定しました。
・「脚」とは、一般的に「形・位置などが動物の足に似ているもの」、「物の下部にあり支えの用に供するもの」を意味し(甲11)、住宅用普通ベッドに係る日本工業規格(JIS)においても、ベッドの床面に接する柱状の部材の名称を「脚」と表示していることが認められる(甲12)。そうすると、本件考案1における「支持脚」とは、マットレスの下部にあり、マットレスを支える柱状のもの、と解するのが相当である。

 これに対し、被告は、「脚」とは、ベッド本体の下部で支えの用をなすもの、又は末に位置する部分を意味し、柱状だけでなく、板状のものも含まれると主張する。しかしながら、上記の日本工業規格(JIS)において、床面に接する板状の部材の名称は、「脚」ではなく「ヘッドボード」、「フットボード」と表示されていることが認められ(甲12)、住宅用ベッドに係る技術分野において、「脚」とは柱状の部材を指し、ヘッドボードやフットボードのような板状の部材はこれに含まれないといえる。

 したがって、被告の上記主張は採用できない。

「接続」とは、一般的に「つなぐこと。つながること。」を意味し、「つなぐ」とは、一般的に「糸・綱などで一か所に物を結びとめて離れないようにすること。」、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」ことを意味する(甲10の1、16)。また、本件各考案が、マットレスやこれを支持する部材等をもって構成されるベッドの考案であることに鑑みれば、本件考案1における「接続されている」とは、マットレスと部材、あるいは部材同士が、離れないように続け合わされている状態を意味すると解するのが相当である。

  これに対し、被告は、「接続」とは、離れているものが単に接することも含み、離れない状態にされていることを意味するものではない、と主張する。しかしながら、上記のとおり、本件各考案がベッドに関するものであることに鑑みれば、支持板を有するマットレスと、これを支える脚が「接続されている」と表現されている場合に、両者が離れないように対処され、ベッドとして一体の状態になっていることを意味すると解するのが自然であるから、両者が単に接しているだけであり、離れないように対処されていない状態を含むと解釈することは困難である。

 したがって、被告の上記主張は採用できない。


【考察】
特許庁の審査あるある、という感じですね。(強引に従来構成の一部を本件発明の構成の一部に相当する、と認定した上で、両者に相違点がないと結論づけることです。)
 時には請求の範囲の記載が広いが故に、従来構成を含んでしまっているケースも、勿論ありますが、「ちょっとそれは強引では???」と感じることも多々あります。本件はそのケースに見受けます。
 甲1考案の「ヘッドボード」と「フットボード」を「支持脚」と認定する点は、百歩譲って理解したとしても、「支持脚」が「支持板」と着脱可能に接続されている、という技術事項を甲1考案が備えているというのは、かなり無理があるように思います。
 原告は、ベッド分野での「支持脚」の意味合いを日本工業規格(JIS)の記載を引用して客観的に主張しました。用語が広辞苑でどの様に記載されているか、
また各種標準規格でどの様に定められているか、こういう基本的なことをもとに反論することが重要であることを、改めて認識させられる裁判例です。


※注)上記裁判例に関する本ブログの記載はあくまで個人的な見方となりますこと、ご了承ください。


 
 

意外と商標登録されていない、ことが結構ある?

 あすみ総合特許事務所の鈴木です。一体あの尋常でない暑い日々はどこに行ったんだ、というほどに涼しく、いや寒くなりました。朝など、ほんの短い時間ですが石油ファンヒーターまで動かしてしまっています(千葉なのに)。
 山の紅葉もすすんでいるようで、登山を趣味とし且つ秋の山が大好きな自分としてはずっとそわそわする季節ですが、いつものことながら仕事の都合と天候とがマッチせず、なかなか思うように登れていません。

 その登山に、結構重要なアイテムがあります。「ココヘリ」という捜索サービスで、契約者(登山者)は、運営会社から発信機を貸与され、それを携帯して登山します。もし、下山予定時刻を所定時間過ぎても契約者(登山者)が下山通知を送らなければ、発信機からの信号を捕捉できる装置を積んだ捜索ヘリが飛び、遭難位置を特定してくれる、というサービスです。
 上記の捜索ヘリは、ココヘリ運営会社が自ら飛ばすものですが、それとは別に多くの都道府県の警察・消防も、ココヘリ発信機の電波を捕捉するための受信機を導入しており、捜索活動に活用されています。
 余談ですが、上記のように国内では唯一無二のサービスでありかなり多くの登山者が契約しているものと思われますが、サービス内容には紆余曲折あり、詳細は割愛しますが登山系のSNSでは実はあまり評判がよくありません。ただ、繰り返しますが捜索サービス自体は唯一無二のものであり、この点に限って言えばそれほど悪い評判はないように思います。(保険サービス(のようなもの)が付随しており、この内容について一部批判がある)

 さて長くなりましたが以上が前置きで、私はときどき直近の商標登録公報をざーっと眺めることがあるのですが、ごく最近登録されたもの(今月です)に、上記運営会社の「ココヘリ」の文字商標及びロゴマーク商標があるのを見つけました。ロゴマークは、上の写真の中央付近にある赤色に白抜きのヘリコプターを表したものです。
 私が加入したのが2017年なので、少なくともその当時から上記の捜索サービスはあり、また「ココヘリ」のサービス名もヘリコプターのロゴマークもありました。なので、直近で登録された商標は、何か新たなサービスを提供する為のものかと一瞬思ったのですが、調べてみたら、指定役務に中核事業である捜索サービスや通信機器の貸与が含まれています。「えっ!? 今さら??」という感じです。
 そこで上記運営会社の商標登録状況を調べてみたら、最も古いもので2019年に登録されており、それでもサービス開始よりだいぶ後のことで、しかも、指定役務に肝心の通信機器の貸与や捜索サービスは含まれていません。
 直近で登録されたものは、恐らく、内部の誰かが気づいて、或いは外部からの指摘を受けて、慌てて出願したのではないかと、個人的には推測しています。

 かなり有名なサービスでも、意外と商標登録されていないことが多いということでしょうね。事業者の方々、お気をつけください。

 
 
 

子供の頃の夏休み

あすみ総合特許事務所の鈴木です。
8月も間もなく終了。夏休みが終わってしまう子供達の心境はいかほどかと、自分の子供の頃を思い出すと或る程度想像ができます。毎日遊ぶことができた休みが終わってしまうことの切なさと、宿題が終わらないことの焦燥感(苦笑)。
私は登山をするので登山系のSNSを見ることが多いですが、「子供の頃の夏休み、毎日毎日休みなのに何をやっていたか思い出せない」との書き込みが。
確かに、毎日毎日なにをしていたんでしょうかね。
パッと思い出せるのは、朝のラジオ体操と、そのあとの子供会のソフトボールから始まり、学校のプールが開放されていたので泳ぎに行き、それで午前中は終わり。午後は、マンガの立ち読みで本屋に入り浸ることが多かった気がします。昔は、単行本に立ち読み防止の為のビニール包装などは一切なかったんですよね。(当時の本屋の御主人さん、ごめんなさい! でもお小遣いで結構買いましたよ。)
さて先日、遅ればせながら、家族で「劇場版鬼滅の刃 無限城編」を観てきました。圧倒的な作画の緻密さ、音の迫力、声優さんの演技など、観る価値は十分ありました。
そして家に帰ってからふと、上記の「夏休み」に絡んで、子供の頃の夏休みに観た映画のことを思い出しました。それがこちら↓です。

調べたところ1979年8月4日の公開で、私は小学5年生だったようです。これも昔の話ですが、当時の映画館は入れ替え制ではなく、一旦入場したら好きなだけいることができ、例えば同じ映画を連続で2回、3回と観ることができました。確かこの映画も、少なくとも2回は見た筈です。
そして上の写真のブルーレイを購入したのはそれから38年後の2017年。今から8年前ですが、38年ぶりに観た銀河鉄道999は、色々な意味で感動しました。
それからずっと収納庫に保管したままだったブルーレイですが、鬼滅の刃の作画があまりに凄かったので、「今、これを観たら、色褪せて感じるのだろうか?」と変な興味が湧き、8年ぶりに観てみました。
結果、確かに純粋な作画の緻密さでは叶わない(そりゃ当然です)が、全く色褪せて感じない、素晴らしい作品だと改めて感心させられました。古くても、良いものは良い、そういうことです。
今度は、何をきっかけに、何年後に観ることになるのか、楽しみでなりません。

 



 

 

 

すごい決勝戦でした

あすみ総合特許事務所の鈴木です。ひさしぶりの日記・雑記となります。
今日はZOZOマリン高校野球千葉大会の決勝戦を見に行ってきました。昨年も見に行ったんですが(昨年は、市立船橋vs木更津総合で、木更津総合が優勝)、今年もあの雰囲気を味わいたくて見に行ってしまいました。

(↑写真は試合開始前)
今日は結構、太陽が雲に隠れる時間が多く、またずっと強い風が吹いていたため、想像していたほど暑さは酷くありませんでした。(観客席のそれも日陰の席だったので、そりゃそうでしょうね。当の選手たちや応援団にとっては酷な暑さだったことでしょう。)
今日のカードは八千代松陰vs市立船橋。準決勝までの勝ち上がりぶりを見る限り市立船橋が有利かなと思っていたら、試合開始早々に失策から失点。八千代松陰の応援のすさまじい圧や、3回の八千代松陰の追加点もあり、全くどうなるか判らない展開となりました。
そして市立船橋にとっては昨年に続く延長タイブレーク。昨年は確か守備妨害だかでホーム生還が認められず、結局その裏に木更津総合にサヨナラ負けを喫してしまったと記憶しています。
今年はどうなるかと固唾を飲んでみていたら、死四球も絡んで市立船橋がまさかの4失点。これは市立船橋にとっては絶対絶命、と見ていた人の殆どがそう思ったことでしょう。(勿論自分も)
2年連続延長タイブレークで負けというのは何という運命・・・と思ってみていたら、まさかまさかの5点逆転サヨナラという凄い結末に。
諦めたらそこで終わり・・・その言葉を体現した、素晴らしい試合でした。

【裁判例】 令和6(行ケ)10049 容易想到性の判断の誤り

 また、久しぶりの裁判例の検討となります。今回は「令和6(行ケ)10049」です。判決言渡日は2025/3/24。拒絶査定不服審判の不成立審決を取り消す請求に対し、理由があるとして審決が取り消されたものです。(特許庁は進歩性なしと判断、裁判所は進歩性ありと判断)

【本件発明の概要】
 公報を読みましたが正直、自分は全てを理解しきれていません(苦笑)。ハイブリッド車のエンジン制御に関するもので、判る人には判るのでしょうが(当たり前ですが)、読むと技術内容が結構複雑で、全てを理解するのは容易ではありません。ですが、判決文を読み込んでいくと、どうやら公報の全てを隅から隅まで理解する必要はない、ということが判りましたので、こうしてブログを書いています。
 前置きが長くなりましたが、本件発明は、推進機3b(要するに駆動輪)が、推進用電動機30(要するにモーター)で駆動されます。推進用電動機30は、エネルギー貯蔵装置4(要するにバッテリー)の電力と、発電用電動機20から供給される電力とで動きます。発電用電動機20は、エンジン10によって駆動され、エネルギー貯蔵装置4と推進用電動機30とに電力を供給可能です。ちょっと雑な個人的理解かもしれませんが、推進用電動機30は通常はエネルギー貯蔵装置4からの電力で駆動されますが、加速時などでパワーが不足するときに、発電用電動機20からも電力を受けて駆動されます。
 符号1は本件発明が適用される「ビークル」であり、明細書では多数の具体例(自動車、列車、船舶、航空機、等々)が挙げられていますが、クレームでは補正によって「ビークル」は「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」と限定されました。
 「リーン姿勢」というのは、二輪車のように旋回する際にカーブの内側に傾く場合のその姿勢であり、そういったビークルは軽快性が求められるため、発進の操作に対する応答性が重要視される、とのことです。本件では、この様に「ビークル」が「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」と限定されたことが一つのポイントとなっています。

 さて、本件発明が解決しようとする課題は、加速しようとする際にエネルギー貯蔵装置4のエネルギー貯蔵量が少ないと、発電用電動機20から電力を受けても目標パワーへの到達に時間が掛かること、とされています。
 この様な問題に鑑み本件発明は、エネルギー貯蔵装置4のエネルギー貯蔵量が少なくなったら予め発電用電動機20の負荷トルクを減少させてエンジン10の回転速度を増速させておくことに特徴があります。これにより、エネルギー貯蔵装置4のエネルギー貯蔵量が少ない場合でも、エネルギー貯蔵装置4および発電用電動機20から目標パワーに対応する電力を出力することができ、即ちエネルギー貯蔵装置4のエネルギー貯蔵量に関わらずに、加速指示に対する出力の応答に再現性を維持することができます。
 ・・・とここまで書いて「これで合ってるんかな?」とちょっと自分で不安になったりしますが、兎に角本件発明は「エネルギー貯蔵装置4のエネルギー貯蔵量に応じてエンジンを高回転にする」ということだけ押さえておいてください。(エンジン10の回転速度を増速させて、エンジントルクを上昇させて・・・というあたりを深く追求すると、難しい領域に入り込むので、ここでは省略します。というか自分は理解しきれていませんので。)

【引用発明】

 本当にざっくり書くと、引用発明も、本件発明と同様なハイブリッド車におけるエンジン制御に関するものですが、引用発明はバッテリー(本件発明のエネルギー貯蔵装置4に相当)の温度が低いときにバッテリーから加速に必要な電力を供給できなくなることに鑑み、バッテリー温度が低いほどエンジンを高回転速度としてエンジンの余裕トルクを増大させる点に特徴があります。
 つまり、本件発明は「バッテリーのエネルギー貯蔵量」に応じてエンジンを高回転とするのに対し、引用発明は「バッテリー温度」に応じてエンジンを高回転とします。
 また、引用発明の適用対象は「
アクセルペダルを有する車両」であり、明細書には、車両として二輪車やドローン、即ち「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローン」についての開示はありません。

 

【審判での判断】
 審判では、上記相違点に関し、以下の様に判断しています。(当方が抜粋し、要約しているのでご了承ください。)
・引用発明では、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両を排除する記載はなく、周知技術であるその様な車両においてエネルギー貯蔵装置は一般的に小型であって、供給可能な電力は低い。
・エネルギー貯蔵装置から供給可能な電力が低いということは、バッテリー温度が低下した場合と課題が共通する。
・従って引用発明の「車両」を、周知技術の「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」とすることに格別の困難性はない。
・引用文献の記載に鑑みると、引用発明は、加速に必要な不足電力分をバッテリから供給できないことによる加速不良を解消し良好な加速応答性を確保することを課題としており、これは本件発明の課題と同様な課題である。
・また、エンジンと電動機とエネルギー貯蔵装置とを備えたビークルの技術分野において、『エネルギー貯蔵装置の温度が低下した場合やエネルギー貯蔵量(SОC)が低下した場合に、エネルギー貯蔵装置の供給可能電力が低下すること。』は、きわめて周知の技術的事項(…中略…以下、「周知事項」という。)である。
・そして引用発明において、かかる課題を解決するために、周知事項に鑑みて、バッテリ(エネルギー貯蔵装置)温度が低い場合に代えて、あるいは、これに加えて、エネルギー貯蔵量(SОC)が低下した場合を採用し、本件発明のように、エネルギー貯蔵装置の『エネルギー貯蔵量に応じて』エンジンの回転速度を増速するように構成することに格別の困難性は認められない。

【裁判所の判断】
 裁判所は、以下の様に認定しました。(当方が抜粋し、要約しているのでご了承ください。)
・引用発明の「車両」は、直ちに、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」を除外するとはいえない。(しかしながら・・・)
・引用発明は、バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さいという課題を解決するものであると認められる。
・審決の認定のうち、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両及びそのエネルギー貯蔵装置は一般的に小型」であることについては、その根拠が示されていないし、仮にそれが事実としても、バッテリが小さいことをもって、ある時点において供給する電力が低いことを直ちに意味するものではない。そうすると、バッテリから供給可能な電力が低いとの課題が「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」に
一般的に存在すると認めるに足りないから、引用発明と本件発明とで課題が共通するとはいえない
 したがって、引用発明の課題と、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」が一般的に有する課題が共通するために、当業者において、引用発明の車両を「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」とする動機付けがあると認めることはできない。そうであるとすれば、引用発明の車両を、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」とすることに格別の困難性は認められないとする本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきである。
・引用文献に接した当業者が、引用発明の課題として、「バッテリ温度が低い時に」という前提を捨象して、加速に必要な不足電力分をバッテリから供給できないことによる加速不良を解消し、良好な加速応答性を確保することを認識するとは認められず、被告の主張(引用文献の記載に接した当業者は、引用発明の課題として、加速に必要な不足電力分をバッテリから供給できないことによる加速不良を解消し、良好な加速応答性を確保することを認識する、との主張)は採用することができない。

【考察】
・本件発明は、上述した様に引用発明との対比において、
(1)車両が「リーン姿勢で旋回可能に構成されたもの」に限定されていること。
(2)エンジンを高回転とすることに関し「エネルギー貯蔵量(SОC)」に応じたものであること。(引用発明は「バッテリー温度」に応じたものである)
  ・・・の2点が異なっていました。
・進歩性の判断においては、主引用発明から出発して当業者が相違点に到達し得ることに関し、一定の課題を解決するための設計変更等は、進歩性が否定される方向に働きます。審決では、課題を「バッテリの能力不足」という様に上位概念化し、「エネルギー貯蔵量(SОC)」に応じてエンジンを高回転とすることに格別の困難性はない、と
いった強引な判断をしたわけです。また、バッテリの供給電力不足という点について、「リーン姿勢で旋回可能な車両」ということにミスリードされ(たかどうかは定かでないですが)、「バッテリが小型なんだから供給電力は不足する」という誤った判断をしたわけです。
・この様な審決の判断は、一読して感覚的に強引であると感じることができます。よって
納得感のある判決です。
・普段の実務でも、審査官が課題を上位概念化することは散見されます。うっかり「まぁ確かにそうかもな・・・」と納得してしまうこともありますが、判決が示しているように、引用発明の本来の課題を置き去りにして課題を上位概念化できるのか、この点はよく検討しないといけません。

【詳細情報】
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※注)上記裁判例に関する本ブログの記載はあくまで個人的な見方となりますこと、ご了承ください。


 
 

2024年の裁判例<まとめ>

あすみ総合特許事務所の弁理士・鈴木です。
かなり遅くなってしまいましたが、今回は昨年(2024年)判決が出された、審決/取消決定の取消請求事件に関し簡単に総括します。

当方が把握した限りで、51件の判決が該当し、うち12件が成立または一部成立で、成立率は23.5%でした。
この数字は、近年の推移からすると大きく傾向が変わったというものではないと思われます。(2023年は成立率は20.5%でした。)
下に、内訳を記載します。アンダーラインが付されたものが、本ブログで取り上げた判決です。
斜字は、成立または一部成立の事案ですが進歩性の裁判所判断が無いものです。またその他、成立事案で本ブログで取り上げなかったものは、技術分野が当方の対応可能領域外だったものです。※化学、バイオなど。
2024年も何か大きな進歩性判断の変化というものは感じられませんでした。
本年も引き続きウォッチし、成立事案に関しては本ブログで取り上げていきたいと思います。