久しぶりの裁判例の検討となります。(言い訳になりますが、特許・実用新案での審決取消請求事件の判決が6月頃から9月頃まで出ていませんでした。)
今回は「令和7(行ケ)10003」です。判決言渡日は2025/9/30。実用新案登録に対する無効審判の成立審決を取り消す請求に対し、理由があるとして審決が取り消されたものです。(特許庁は進歩性なしと判断、裁判所は進歩性ありと判断)
【本件考案の概要】
ベッドに係わる考案で、比較的シンプルな内容です。従来のベッドは、ベッドフレームとマットレスとが別体であり、ベッドフレームが大きく、輸送が大変であったことが解決課題です。
本件考案は、マットレス本体とマットレス本体に間隔を隔てて接続されている支持板(12)及びこれと着脱可能に接続されている支持脚(20)を備えており、このようなベッド構造は、支持脚(20)を外した状態でマットレスを支持板(12)の配列方向に沿ってリール状に巻き取ることができ、搬送時にマットレス全体の梱包体積を低減させ、さらに搬送を便利にする、というものです。
(図中、朱色の支持板(12)は、当方が書き入れたものです)

念のため、請求項1を以下に記載します。
【請求項1】
マットレス本体及び前記マットレス本体に接続されている複数の支持板を有するマットレスと、
前記支持板と着脱可能に接続されている複数の支持脚と、
を備えるベッドであって、
複数の前記支持板が、前記マットレスを前記支持板の配列方向に沿って巻き取ることができるように前記マットレス本体の一方の面に間隔を隔てて配列されていることを特徴とするベッド。
【引用考案(甲1考案)】
引用考案である甲1考案は、本件考案が課題としているベッド構造そのものであるように見受けます。甲1考案は、ベッドフレーム8の長手方向の両端部に、高さが高い「ヘッドボード」と、高さが低い「フットボード」を備えています。ベッドフレーム8は、ベッドマットレス1を支持するリブ状のマットレス支持板が設けられた側板を備えています。要するにベッドマットレス1は、大きな枠状のベッドフレーム8に、上から落とし込む様にして設けられます。ベッドマットレス1は、ベッドフレーム8に、上から落とし込むだけであり、特段何らかの接続構造を備えるものではありません。
ベッドマットレス1は、スラット3を有しています。(スラットと言うのは、マットレスの分野でマットレスを支える薄い板状の部材のようで、一般的には「すのこ」状に並べられた床板を指すようです。) スラット3は、ベッドマットレス1の側縁に沿って設けられたバンド5のポケット4に挿入されます。この様なベッドマットレス1は、それ自体はくるくると巻くことができ、輸送スペースを最小限に抑えることができる、と記載されています。
大きな枠状のベッドフレーム8を必要とするのですから、本件考案の課題を解決できないことは一目瞭然です。


【審判での判断】
審判では、甲1発明の「ヘッドボード」と「フットボード」(いずれも板状のもの)の下端部が、上図のように「支持脚」であると認定しました。
また、甲1考案におけるベッドマットレス1は、スラット3(本件考案1における「支持板」に相当)、バンド5、マットレス支持板及び側板を介して、支持脚と間接的に接続されている、と認定しました。
以上により、本件考案1と甲1考案との間に相違点はない、と認定しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、以下の様に認定しました。
・「脚」とは、一般的に「形・位置などが動物の足に似ているもの」、「物の下部にあり支えの用に供するもの」を意味し(甲11)、住宅用普通ベッドに係る日本工業規格(JIS)においても、ベッドの床面に接する柱状の部材の名称を「脚」と表示していることが認められる(甲12)。そうすると、本件考案1における「支持脚」とは、マットレスの下部にあり、マットレスを支える柱状のもの、と解するのが相当である。
これに対し、被告は、「脚」とは、ベッド本体の下部で支えの用をなすもの、又は末に位置する部分を意味し、柱状だけでなく、板状のものも含まれると主張する。しかしながら、上記の日本工業規格(JIS)において、床面に接する板状の部材の名称は、「脚」ではなく「ヘッドボード」、「フットボード」と表示されていることが認められ(甲12)、住宅用ベッドに係る技術分野において、「脚」とは柱状の部材を指し、ヘッドボードやフットボードのような板状の部材はこれに含まれないといえる。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
・「接続」とは、一般的に「つなぐこと。つながること。」を意味し、「つなぐ」とは、一般的に「糸・綱などで一か所に物を結びとめて離れないようにすること。」、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」ことを意味する(甲10の1、16)。また、本件各考案が、マットレスやこれを支持する部材等をもって構成されるベッドの考案であることに鑑みれば、本件考案1における「接続されている」とは、マットレスと部材、あるいは部材同士が、離れないように続け合わされている状態を意味すると解するのが相当である。
これに対し、被告は、「接続」とは、離れているものが単に接することも含み、離れない状態にされていることを意味するものではない、と主張する。しかしながら、上記のとおり、本件各考案がベッドに関するものであることに鑑みれば、支持板を有するマットレスと、これを支える脚が「接続されている」と表現されている場合に、両者が離れないように対処され、ベッドとして一体の状態になっていることを意味すると解するのが自然であるから、両者が単に接しているだけであり、離れないように対処されていない状態を含むと解釈することは困難である。
したがって、被告の上記主張は採用できない。
【考察】
・特許庁の審査あるある、という感じですね。(強引に従来構成の一部を本件発明の構成の一部に相当する、と認定した上で、両者に相違点がないと結論づけることです。)
時には請求の範囲の記載が広いが故に、従来構成を含んでしまっているケースも、勿論ありますが、「ちょっとそれは強引では???」と感じることも多々あります。本件はそのケースに見受けます。
甲1考案の「ヘッドボード」と「フットボード」を「支持脚」と認定する点は、百歩譲って理解したとしても、「支持脚」が「支持板」と着脱可能に接続されている、という技術事項を甲1考案が備えているというのは、かなり無理があるように思います。
原告は、ベッド分野での「支持脚」の意味合いを日本工業規格(JIS)の記載を引用して客観的に主張しました。用語が広辞苑でどの様に記載されているか、また各種標準規格でどの様に定められているか、こういう基本的なことをもとに反論することが重要であることを、改めて認識させられる裁判例です。
※注)上記裁判例に関する本ブログの記載はあくまで個人的な見方となりますこと、ご了承ください。