進歩性に悩める弁理士のブログ

主に自己の業務の備忘録として思うまま書いていきます ※業務以外の雑談も

2016年頃の裁判所の進歩性判断

先日投稿した「弁理士会のel研修(進歩性)」の「1.判決からみた進歩性に関する判断動向と改訂審査基準との比較(2016.5.20収録)」を聴講しました。
自分が確認したかった進歩性判断動向は以下の通りです。

  • 2008年以降(~収録時点まで)は裁判所の進歩性判断傾向に大きな変化は見られない。
  • 2015年改訂審査基準は裁判所の進歩性判断に沿っている。

もう一つ参考になったのは、

  • 阻害要因は、審査基準では主引用発明と副引用発明との間での関係のみが述べられているが、判例では本願発明と主引用発明との間でもあり得るし(平成25(行ケ)10242「照明装置」)、副引用発明同士でもあり得る。

ところでこの講義を聴講して勉強になったというか知らなくて恥ずかしく感じたことがあり、審査ハンドブック[3215 引用発明の認定に関する留意事項]に審査官に対して刊行物の内容認定に関する注意喚起があったことです。
先ず、「審査官は、請求項に係る発明の知識を得た上で先行技術を示す証拠の内容を理解すると、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面の文脈に沿ってその内容を曲解するという、後知恵に陥ることがある点に留意しなければならない。引用発明は、引用発明が示されている証拠に依拠して(刊行物であれば、その刊行物の文脈に沿って)理解されなければならない。」

・・・とあります。そしてさらに、審査官は以下の点にも留意する、とあります。

(1)審査官は、刊行物の一部の記載のみから、合理的な根拠なく、引用発明を認定してはならない

(2)審査官は、刊行物等に記載されている発明の内容を、その構成のみによって判断せず、解決すべき課題、技術分野等の観点についても考慮して判断する。

拒絶理由通知では「一体どうやって探してきたんだ?」とこちらが感心するほど、図面の一部にちょこんと表れている構成(しかも明細書でろくに説明されていない)を副引用例として挙げられることがありますが、経験上殆どの場合「ただ図面に表れている」というだけで課題の共通性はありません。技術分野は共通していることが多いですが、本願発明を知らないでその文献に接した当業者は到底引っ張ってこれないだろうと感じる構成であり、こういった場合は意見書での反論において引例の文脈の観点で丁寧に説明してみるのも良いかもしれません。
(ただ、しつこいようですが得てしてそういう審査をする審査官には何を主張しても通用しなかったりします。)