進歩性に悩める弁理士のブログ

主に自己の業務の備忘録として思うまま書いていきます ※業務以外の雑談も

進歩性の審査基準の変遷(超ざっくり)

表題の件、長いこと実務やってきてその時々で接してきたものの忘れてしまったのでポイントを再確認してみました。
先ず、2000年に改訂されています。ポイントは以下の記載です。
関連する課題解決のために、関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば、関連する技術分野に置換可能なあるいは付加可能な技術手段があるときは、当業者が請求項に係る発明に導かれたことの有力な根拠となる。
つまり、動機付けなく組み合わせ可能、ということです。そういえばこんな記載だったなぁ、と懐かしさを感じました。
進歩性の判断を厳しくした背景には、特許庁で進歩性ありとされた審決が当時高裁で高い確率で取り消されていたことが背景にあったようです。*1

次に、2015年に改訂されています。ポイントは、論理付けのための観点を「進歩性が否定される方向に働く要素」と「進歩性が肯定される方向に働く要素」とに分けて、審査官は先ず前者で論理付けをしてみて進歩性が否定できないなら進歩性ありと判断し、進歩性が否定できるなら後者で論理付けをしてみて、それでも進歩性が肯定できない場合に進歩性が否定される、とした点です。以前よりも丁寧に判断しようという姿勢変化、と捉えたくなりますが、審査基準改訂を議論した産業構造審議会の議事録によれば、それまでの進歩性判断を実質的に変えるものではなく、進歩性判断の手法をより明確化したものだそうです。

ところで実際に実務をやっていて2015年改訂の影響を肌で感じたかどうかといえば、「否」となるでしょうか。(まぁそれまでの進歩性判断を実質的に変えるものでないと言っているので当たり前といえば当たり前でしょうけど)
特に「進歩性が肯定される方向に働く要素」を積極的且つ丁寧に検討している拒絶理由通知書或いは拒絶査定書は殆ど見かけたことがありません。
尚このあたりは、担当する技術分野によっても変わるかもしれませんね。ただ少なくとも自分が普段接している技術分野では上記の通りです。

*1:深海特許事務所(2019)「発明の容易想到性、進歩性の判断基準ー事例研究ー」経済産業調査会