進歩性に悩める弁理士のブログ

主に自己の業務の備忘録として思うまま書いていきます ※業務以外の雑談も

【裁判例】 令和5(行ケ)10002 相違点の判断の誤り

 久しぶりの裁判例の検討となりますが、昨年度検討しようとしていて失念していた裁判例です。判決日から間もなく1年近く経ってしまいますが検討しておきます。
 「令和5(行ケ)10002」、判決言渡日は2024/4/25。無効審判の不成立審決を取り消す請求に対し、理由があるとして審決が取り消されたものです。(特許庁は進歩性ありと判断、裁判所は進歩性なしと判断)
 今回はかなり簡略化して説明します。


【本件発明、引用発明、審決、裁判所の判断】
 いずれも照明器具に関する発明です。

 両者をかなりざっくりと説明すると、
<本件発明>・・・取付部材(赤)が、基板(黄緑)を器具本体(ピンク)に取り付けるための部材であり、カバー部材(青)は、基板(黄緑)を覆うようにして取付部材(赤)に取り付けられる、と請求項で特定されている。
<引用発明>・・・(便宜上、部材名称を本件発明に合わせて説明すると)、基板(黄緑)が取り付けられる取付部材(赤)が、カバー部材(青)を介して器具本体(ピンク)に取り付けられている。
・・・ということになります。
 特許庁は、特許請求の範囲の文言上、取付部材(赤)は直接、器具本体(ピンク)に取り付けられるものと認定し、これを相違点としましたが、裁判所はこれを相違点ではないと判断しました。(その結果、本件発明は引用発明に基づいて容易に発明できたと判断しました。)
 裁判所は、本願明細書に、取付部材(赤)を器具本体(ピンク)に取り付ける為の具体的な構成の特定が無く、取付部材(赤)を器具本体(ピンク)に取り付けるための構成として任意のものを採用し得るものであり、カバー部材(青)を介在するような態様を排除するものではない、と判断しました。
 本願明細書には、実際には「取付部材(赤)と器具本体(ピンク)にそれぞれ設けた嵌合構造(図示せず)」との記載がありますが、両者が嵌り合うための具体的構造について図示はされておらず、このことを踏まえて裁判所は、カバー部材(青)が両者の間に介在するような態様を排除するもではない、と指摘しています。

【考察】
 どう明細書を書けば良かったか、をあくまで事後的に考えると、明細書で取付部材(赤)と器具本体(ピンク)との「嵌合構造」を「図示せず」で済まさずに、きちんと図を用いて説明していれば、少なくとも相違点と認定された可能性はあります。しかしながら上記「嵌合構造」は本願発明が解決しようとする課題とは直接関係のない部分の構造であり、「図示せず」としていたのは止むを得ないようにも見受けます。
 またそもそも、相違点と認定されても、それによる作用効果の相違がないように見受けます。そうすると結局は、想到容易と判断されるべきものと考えられます。
 本件は、どちらかというと裁判所の判断が一般的な(?)審査官の判断に近く、審決のほうが特許請求の範囲を狭く認定し、特許を維持したように見受けます。実務に活かす教訓はあまりないかとは思いますが、少なくともクレームに登場する構成同士の関係については、できる限り図を用いて丁寧に説明しておくことか適切
です。

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※注)上記裁判例に関する本ブログの記載はあくまで個人的な見方となりますこと、ご了承ください。